どんな科目?
課題情報
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科目 |
民事訴訟法 |
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課題概略 |
事例問題:課題文約580字構成 (要約)家屋の相続等に関する事例について、自説と対立説挙げたうえで記載する。 |
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課題タイプ |
論評せよ |
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提出形式 |
ワープロ |
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評価 |
B |
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レポート構成 |
1 課題定義(事例整理) 2 流れ提示 3 説明1(弁論主義1) 4 説明2(弁論主義2) 5 要件当てはめ 6 結論 7 引用文献・参考文献 |
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文字数制限 |
4000字 |
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本文文字数 |
3886字 |
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備考 |
・必要ない記載が目立つ旨の他改善点をご指摘いただいています。 ・改めて読んでみたところ、本来メインで書かなければならない、本件への要件当てはめが後半部分に慌ただしく記載されています。序章~第2章で弁論主義について延々と長文で書いていますが、この課題からすると的外れな印象です。ここはコンパクトに記載することが必要だったと思います |
分析
・赤字は先生からの追加文字です。先生からの具体的なご指摘箇所や修正箇所は原則明記しておりませんが、今回の場合これが抜けると文章の印象がかなり違うため、あえて記載いたします。
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課題定義(事例整理)
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序 章
本件において、Xは家屋をAからBが購入し、Bの死亡によりXが相続したはずのものをYが不正な方法で登記を自己名義に変えたと主張している。
一方でYは、本件家屋はAからYが購入したものであり、Bは名義を貸していたにすぎず、Yに変更したのは正当であると主張している。
この両者の主張からは、理由は異なるものの本件家屋の登記がAからBのあとYに移転され、現在はY名義であるということについて一致しており争いはない。
従って、本件についてまず裁判所が判断すべき事項は本件家屋の所有権の確認となり、家屋の明渡し、Yの登記抹消についての処置はその判断に基づいて行うこととなる。
この所有権の確認について、裁判所は「本件家屋はAからBが購入したものである」としてまずはXの主張を認めている。
しかし、その後の本件家屋の権利移転について、BからYへの「贈与」であるとした判断については、そもそもX、Y共に贈与による所有権の主張をしていない。
弁論主義の下では、当事者が主張しない事実を基に判断を下してはならないことが原則である(弁論主義の第一テーゼ)。
このため、本件のように当事者が主張しない事実を裁判所が判決の基礎としたことは弁論主義に反しないかが問題となる。
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流れ提示
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以下では、まず弁論主義についての説明を行ない、その内容に基づいて弁論主義の観点から本件に対する裁判所の処置について論評したい。
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説明1(弁論主義1)
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第1章 弁論主義とは
弁論主義とは、「訴訟物たる権利関係の基礎をなす事実の確定に必要な裁判資料の収集、すなわち事実と証拠の収集を当事者の権能と責任に委ねる原則」(注1)をいう。
その根拠は明文にはなく「私益に関する事項は当事者の自由な処理にまかすべきである」(注2)という私的自治を原則とする民事訴訟の本質に根ざす思想にある(本質説)。
民事訴訟の対象である財産紛争は、裁判外で私的自治の原則が妥当であるとするのと同じように、裁判上でも可能な限り当事者の意思を尊重することが望ましいとする考え方である。
弁論主義の下では、口頭弁論に提出されたもの以外は判決の基礎としてはならないことが保証されるため、当事者の攻撃防御について不意打ち防止機能を有するといえる。
ここから、裁判所は当事者が弁論で主張しない事実を判決で認定してはならない(弁論主義の第一テーゼ)という原則が導かれるとともに、一方で当事者が自己に有利な事実について主張しない場合には、そのことによって受ける不利益である主張責任を負うことになる。
また、争いの無い事実はそのまま事実認定しなければならず(弁論主義の第二テーゼ:179条)、当事者間に争いのある事実を証拠によって認定する際には、当事者からの提出がない証拠による事実認定はできない(弁論主義の第三テーゼ)。
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説明2(弁論主義2)
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第2章 弁論主義の適用される事実
では、弁論主義の適用される事実とはいかなるものだろうか。
訴訟法上でいう「事実」には、直接権利の発生や消滅をさせる構成要件に該当する事実である「主要事実」、主要事実について存否を推認するのに役立つ事実である「間接事実」、証拠の信用性に影響を与える事実である「補助事実」がある。
これらの事実のうち弁論主義の適用される事実がどのようなものかについては解釈が分かれているので、以下に紹介したい。
1つ目として、主要事実適用説が挙げられる。これは、弁論主義の適用される事実は主要事実のみであるとするものである。
なぜならば、当事者の意思の尊重や不意打ち防止の観点から見れば訴訟の勝敗に直接影響のあるのは主要事実を対象とすれば十分であるからとしている。
また、間接事実や補助事実の性質に注目すると、これらは主要事実の認定につき証拠と共通の機能を持つものであるゆえに、これらについてまで主張責任等を認めるのは自由心証主義(第247条)に反するおそれがあるという理由もある。
2つ目として、主要事実・間接事実適用説が挙げられる。
この説の根拠は、実際の事例における要件事実の存否の証明について、間接事実の積み重ねによらなければ証明が難しいケースが増えており、間接事実が主要事実に代わる役目を果たすことがあるとするものである。
このような場合に間接事実に弁論主義の適用がないとすれば、当事者にとって不公正な不意打ちとなるとする。
3つ目に、個別判断説が挙げられる。この説では、弁論主義は主要事実に適用されるという点では主要事実適用説と同じであるが、その主要事実については「その法条の立法目的、当事者の攻撃防御目標として明確かという観点、および認定すべき事実の範囲が審理の整理、促進という観点からみて明確かという配慮に基づいて」(注3)具体的な事案ごとに帰納的に定めていくものであるとすることに特徴がある。
個々の判断基準としては、裁判所には審理の明確な目標であり、相手方にとっては不意打ちとならず防御活動が行なえる程度の具体的事実であればよいとする。
それでは、どの説が妥当といえるだろうか。弁論主義において重要なのは、当事者の意思の尊重と不意打ち防止機能である。
主要事実・間接事実適用説では、訴訟結果に重要な影響を与えるものについては、主要事実、間接事実のどちらであっても当事者の主張を必要とさせることで、不意打ちの防止は図られるといえる。
しかし、一方で、適用範囲の広さから裁判所を拘束する事実が広範囲になりすぎるために自由心証主義(247条)に抵触する可能性が出てくる。
また、間接事実は、主要事実を推認させるという点で普通の証拠と同様の機能を果たす以上、間接事実を含むとすると、重要度の高くない事実についてまで裁判所が自由に取り扱うことができなくなり、合理的な判断を妨げるという点からも自由心証主義に反するおそれがある。
したがって、権利の発生・変更・消滅という法律効果を判断するのに必要な事実である主要事実を対象とすれば足り、弁論主義の対象となる事実は、主要事実に限られ間接事実は含まないと解する。
また、主要事実について事案ごとに判断することは自由心証主義には反しないが、判断基準が明確とはいえず担当する裁判官の主観によって判断が大きく左右される可能性がある。
以上の考察から主要事実適用説が妥当であると結論する。
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要件当てはめ
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第3章 本件と弁論主義
それでは、本件家屋はBがYに贈与したという事実については、弁論主義の適用があるのだろうか。
BからYに贈与されたという事実は権利者の変更という法律効果を判断する上で必要な事実であり主要事実であると解する。
それゆえ、この事実について弁論主義の適用があり、主張責任の対象になると考える。
本件では、Xの主張が認められるには、Bが生前に本件家屋を所有していた事実およびXがBを相続した事実を認められることが必要である(最高裁昭和55年2月7日判決 民集34巻2号123頁)。
Bは相続の開始時点で本件家屋の所有者である必要があるが、これについてはYとの主張に違いがあるためその取得経緯について内容を争うことになる。
それでは、本件家屋がBからYに贈与されたという事実はX、Yのどちらが主張しなければならないのだろうか。
この点について、主張責任の分配は、主張責任は当事者が負う不利益という点で証明責任と共通するので、判断は証明責任の分配基準によるべきであると解する。
証明責任とは「ある事実が真偽不明の場合に、判決において、その事実を要件とする自己に有利な法律効果の発生または不発生が認められないこととなる一方当事者の不利益の負担」(注4)をいう。
権利関係の存否についての判断は、その権利の発生、変更、消滅という法律効果を規定する法規の存在の有無によって確定されることから、証明責任の配分は法規の適用問題であるといえる。
これについて、基準が明確であることと、また、当事者の公平等を考慮すると「一定の法律効果を主張する者は、その効果の発生を基礎付ける適用法条の要件事実につき証明責任を負う」(注5)ことが妥当であるといえる。
したがって、その法律効果の発生を規定する「権利根拠規定」の要件事実は権利の発生を主張する者が証明責任を負う。
また、法律効果の発生についての障害事由を規定する「権利障害規定」の要件事実については法律効果の発生を争う者が証明責任を負い、法律効果の消滅を主張する者は「権利滅却規定」の要件事実について証明責任を負う。
これを本件でみるに、本件家屋がBからYに贈与されたという事実は、Yに権利の発生が生じるということから権利根拠規定の要件事実であり、Yが証明責任を負うと解する。
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結論
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終 章
前章までで述べてきたことから、裁判所は、Yが購入したものではなく、AからBが購入したものであると認定したことについては問題ないと考え賛成する。
しかし、AからBが購入したものであると認定する以上、XがBの相続人として本件家屋を相続したとしてXの請求は認められるべきであると考える。
また、Xについては自己の主張である、AからBが購入したという事実さえ立証すればよく、その後、本件家屋がBからYに贈与されたという事実は、Yが抗弁として主張しなければならないと解する。
結論として、BからYに贈与されたという、X、Y共に主張していない主要事実を基に裁判所がXの請求を棄却した処置については、弁論主義に反すると解し裁判所の見解に反対である。
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引用文献・参考文献
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<引用文献>
・ (注1) 伊藤眞 著「民事訴訟法 第3版補訂版」有斐閣2005年265頁
・ (注2)新堂幸司 著「新民事訴訟法(第三版補正版)」弘文堂2005年 395頁
・ (注3)新堂幸司 著「新民事訴訟法(第三版補正版)」弘文堂2005年 402頁
・ (注4)上田徹一郎 著「民事訴訟法(第四版)」法学書院2004年 374頁
・ (注5)上田徹一郎 著「民事訴訟法(第四版)」法学書院2004年 378頁
<参考文献>
・ 新堂幸司 著「新民事訴訟法(第三版補正版)」弘文堂2005年
・ 伊藤眞 著「民事訴訟法 第3版補訂版」有斐閣2005年
・ 高橋宏志 著「重点講義 民事訴訟法 上」有斐閣2005年
・ 高橋宏志 著「重点講義 民事訴訟法 下(補訂版)」有斐閣2006年
・ 上田徹一郎 著「民事訴訟法(第四版)」法学書院2004年
・ 中野貞一郎・松浦馨・鈴木正裕 編「新民事訴訟法講義(第2版)」有斐閣2004年
・ 兼子一・竹下守夫 著「民事訴訟法 新版」弘文堂1993年
・ 山本和彦 著「民事訴訟法の基本問題」判例タイムズ社2002年
・ 津田憲司 著「民事訴訟法判例百選(第三版)」有斐閣2003年
・ 株式会社東京リーガルマインド編「C-Book 民事訴訟法Ⅰ<総論・訴訟の開始・訴訟の審理>第2版」株式会社東京リーガルマインド2004年
・ 菅野和夫 他編「ポケット六法 平成19年版」有斐閣2006年
・ 法令用語研究会 編「有斐閣 法律用語辞典(第3版)」有斐閣2006年
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