スーパー等が、テナントの顧客に対する責任を連帯して負わなければならない場合に関するも課題です。日常生活においては買い物など商行為は不可欠で身近なものです。
こんな決まり事があるんだ、と気づきの多い科目でした。
こんな決まり事があるんだ、と気づきの多い科目でした。
どんな科目?
商取引法という科目名ではありますが、「商取引法」という法律があるわけではなく、商法が対象です。商法は企業と顧客・消費者、更には企業と企業との間の関係といった経済主体間で利益の衝突がある場合にその合理的な調和と解決、言い換えれば商取引の安全を目標とする法律です。
課題情報
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科目 |
商取引法 |
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課題概略 |
スーパー等がテナントの顧客に対する責任を連帯して負う場合に関するもの |
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課題タイプ |
判例を検討し、根拠を示めせ |
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提出形式 |
ワープロ |
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評価 |
B |
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レポート構成 |
2 説明/考察1(責任の根拠) 3 説明/考察2(責任の要件) 4 説明/考察3(責任の範囲) 5 まとめ 6 略語一覧・参考文献 |
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文字数制限 |
4000字 |
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本文文字数 |
3985字 |
9 |
備考 |
・検討不足の判例についてご指摘いただいています。 |
分析
1
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課題定義と流れ提示
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商取引法(平成17年改正法に基づいて記述)
序章
商法は、企業と顧客・消費者、更には企業と企業との間の関係といった経済主体間で利益の衝突がある場合にその合理的な調和と解決、言い換えれば商取引の安全を目標として存在している。
商取引の当事者は、商品や貨幣を介して純粋な経済的利益を求めるが、その利害関係は複雑に交錯しているため、その合理的調整が特に必要となる。スーパーやデパートとテナントの関係に関しては、商法上で名板貸と呼ばれる形態によって利害関係の調整を行なうことが多い。
名板貸とは、ある者(名板貸人)が他人(名板借人)に対して自己の商号を使用しての営業を営むことを許諾することをいう。
これは、わが国の商法上では、商号選定自由の原則がとられており、商人は原則として商号を自由に選ぶことが可能である(商法第11条)ことから名板貸のような名義貸与行為も認められると解されることに基づいている。
名板貸によって企業活動を行うのはテナントなどの名板借人である。
しかし、その外観から名板借人ではなくその名板貸人であるスーパーやデパートが営業主体であると認識して取引を行なう者が現れることがある。
このような場合、取引安全の見地から、名板貸人は原則として外観を信じて取引した者に対し、名板借人と連帯してその取引において生じた債務を弁済する責任を負うとしている(商法第14条)が、具体的にはどのような場合に責任を負うことになるのだろうか。以下に考察したい。
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2
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説明/考察1(責任の根拠)
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第1章 責任の根拠
現代経済において、企業の存在は重要な位置を占めており、商法はその商取引や企業活動が円滑に行われるための基盤として存在している。
商取引や企業活動は、反覆的・集団的かつ継続的に行われるものであることから、その円滑な継続のためには取引安全の保護は非常に重要であるといえる。
この取引の安全という面に対し、わが国の商法上では二つの見解が重要視されている。
ひとつは、商号などを他人が使用することを許諾した者は、自己を営業主体と誤認して取引した者に対して、商号などを使用した他人と連帯して責任を負うものとする見解であり、「禁反言の法理」と呼ばれている。
「禁反言の法理」とは、ある表示をした者は、その表示を信用してその立場を変更した者に対し、表示したものと矛盾する主張を許さないとする英米法上の理論である。
もうひとつは、営業主からの商号などの使用許諾によって、許諾を受けたものがあたかも営業主であるかのような外観を生み出してしまった場合には、営業主はその外観を信頼した者に対して、外観通りの責任を負うとする見解であり、「外観法理」という。
これは、事物の外観と真相が一致していない場合に、外観を信用して行動した者に対して、その外観通りに事物を決することができるとするドイツ法に基づく見解である。
わが国の商法ではこれらの見解のもと、名板貸人が真実の営業主であると誤認して名板貸人との間で取引を行なった場合、その外観を信頼した第三者の受ける不測の損害を防止するべく、第三者を保護し、取引の安全を期している。
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3
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説明/考察2(責任の要件)
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第2章 責任の要件
先に述べた根拠に基づくと、名板貸人であるスーパーあるいはデパートが名板借人であるテナントの顧客に対する責任を連帯して負わなければならなくなるのはどのような要件が必要になるのだろうか。
1. 独立して営業をなすことに対する名義使用の許諾
独立して営業している者に対して名義の使用を許諾したことである(14条の文言解釈による)。
スーパーやデパートとテナントの関係に関していえば、通常テナントとして契約するのはビルの一室を個人が借りる場合などと違い、スーパーやデパートの集客力をあてにして、自らの商品の販売を目的として契約することが多く、そのほとんどが独立して営業をなしているといえる。
また、この許諾については黙示であっても可とする。更に、名義使用の事実を知りながら、それを放置する(不作為)場合も許諾にあたる(通説)。
但し、誤認されやすい状態など社会通念上放置してはならない義務の違反にあたるものに責任が生じるのであり、全くの他人の勝手な使用に対してすべて責任を負うわけではない(大阪高判昭和37年4月6日下民集13巻4号653項)。
名板貸人の責任は名板借人の責任を前提とするため、単に手形行為をすることについての許諾については適用されない(最判昭和42年6月6日判時487号56項)。
但し、営業に関する名義使用の許諾が行なわれ、手形行為についてのみ名義が使用された場合については類推適用される(最判昭和32年1月31日民集11巻1号161項)
2. 営業または事業の同種性
許諾を受けた者と名板貸人の営業については、特段の事情がない限り同種であることを必要とする(最判昭和36年12月5日民集15巻11号2652項)。
ここでいう特段の事情とは、商号の名称自体からは特定の業種を推測が難しく、名板借人が名板貸人から従前の店舗や印鑑、看板など、引き継いだものをそのまま使用しているよう場合をいう。
14条は、商号というものが法律上、特定の営業について特定の商人を表す名称であり、社会的にその営業の同一性の表示と信用を示す機能を持つという事実に基づいて第三者を保護するために定められているためにこの要件を必要と解釈されている。
しかし、近年、学説ではこの要件を不要とするものも多い。なぜなら、個人商人はひとつの商号のもとに複数の営業を行なうことが常態である上、会社であれば、定款記載の目的も多目的であることが普通であるため、名板貸における外観において同業種と要件は本質的要素ではないと考えられるからである。
スーパーやデパートなども、その性質上複数の営業を行なっていることが常態であり、インコ事件(最判平成7年11月30日民集49巻9号2972頁)においても本来スーパーとはなじみの薄いペットというテナントの販売品に関してもその責任を認めたことから学説を支持しているといえる。
3.相手方の誤認と善意の第三者
相手方である第三者が名板貸人を営業主と誤認して名板借人と取引したことが要件となる。
なぜなら、商法14条の立法趣旨が、第三者が名義貸与者を真実の営業主であると誤認して名義貸与を受けた者との間で取引をした場合に、名義貸与者が営業主であるとの外観を信頼した第三者を保護することにより取引の安全を期するということにあるからである。
この、商号などの使用の許諾により作出された外観を信頼して取引した第三者を保護するという趣旨から、当該第三者に悪意又は重過失があるときは保護する必要はなく、同条の適用は否定されるものと解される。
スーパーやデパートとテナントの関係においても、第三者である顧客が、営業主を名板借人であるテナントではなく名板貸人であるスーパーやデパートと誤認せざるを得ない条件があったのかどうかが判断基準となる。
しかし、この要件に関しては非常に判断が難しく、前述のインコ事件の場合もこの要件を充たすか否かが大きな問題となり、誤認の要件を充たさないとしてスーパーの責任は無いとした原判決が最高裁判決で覆されるという事態を生じた。
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4
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説明/考察3(責任の範囲)
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第3章 責任の範囲
名板貸人が名板借人と連帯して責任を負う要件を充たした場合、その商号使用に関しては一切の責任を負う必要があるのだろうか。
14条では、名板貸人は名板借人と相手の間で取引上生じた債務について名板借人と連帯して責任を負うべき旨を定めている。
1.
許諾の範囲
名板貸人が商号の使用を許諾した範囲内において責任を負うとする(最判昭和36年12月5日民集15巻11号2562項)。
スーパーやデパートとテナントの関係においては、テナントに対して特定の取扱品目についての営業を許諾していた場合、商号使用を許諾した範囲を超える品目の取引については、表見代理(民法110条)の問題であり、商法上の責任範囲外であるといえる。
2.
取引上生じた債務
名板借人と相手方との取引上の債務についてだけではなく、名板借人の債務不履行による損害賠償債務や、売買契約の解除による手付金返還債務などの原状回復義務も責任範囲に含まれる(最判昭和30年9月9日民集第9巻10号1247項)。
但し、事実行為としての不法行為に基づいての損害賠償債務は責任範囲外であるが、取引の外観を持つ不法行為については責任が生じる(最判昭和58年1月25日判事1072号144項)。
3.
連帯して弁済する責任
名板貸人の債務を保証したり、代わりに引き受けたりするのではなく、名板借人と取引した相手に対して直接に弁済の責任を負う。
また、名板貸人と名板借人ともに責任を負い、両者に主従関係は生じない。
デパートあるいはスーパーが名板貸人である場合においては、名板借人であるテナントの顧客に対して責任が生じた場合には、両者はともに顧客に対して直接弁済する義務を負うことになる。
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5
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まとめ
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終章
高度情報化が急速に進んでいる現代社会においては、既存のスタイルも残ってはいるものの、インターネットによるオンラインショッピングの出現など、商取引そのものの形が変化の受け入れを余儀なくされつつある。
これまで考察してきたスーパーあるいはデパートにおけるテナントの顧客に対する責任も、どのような場合に連帯責任を負わなければならないのかいうことについて時代の流れとともに商取引に関する規定も柔軟に対応していくことは重要なことである。
しかし、商法において大切なのは、どのような時代になっても、商取引を行なう者が常に安全であるという実感を持てる法律であることである。
今後も時代の流れに沿って、どのように商取引の対処を行なうとしても、現在の商法の根底に存在する商取引の安全という目的を見失ってはならないと考えている。
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6
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略語一覧・参考文献
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略語一覧
・ 最判・・・最高裁判所判決
・ 大阪高判・・・大阪高等裁判所判決
・ 民集・・・最高裁判所民事判例集
・ 下民集・・・下級裁判所民事裁判例集
・ 判時・・・判例時報
参考文献
・菅野和夫 他編「ポケット六法 平成18年版」有斐閣2005年
・ 末永敏和 著「商法総則・商行為法―基礎と展開 第2版」中央経済社2006年
・近藤光男 著「商法総則・商行為法 第5版」有斐閣2006年
・ 近藤光男 著「商法総則・商行為法 第4版」有斐閣2002年
・ 倉澤康一郎 監修「口語六法全書 口語 商法」自由国民社2004年
・ 服部榮三・北沢正啓 編「商法 第9版」有斐閣2002年
・ 浜田道代 著「商法 第3版」岩波書店2003年
・ 江頭憲治郎 著「商法(総則・商行為)判例百選 第4版」有斐閣2002年
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文章のみ
商取引法(平成17年改正法に基づいて記述)
序章
商法は、企業と顧客・消費者、更には企業と企業との間の関係といった経済主体間で利益の衝突がある場合にその合理的な調和と解決、言い換えれば商取引の安全を目標として存在している。商取引の当事者は、商品や貨幣を介して純粋な経済的利益を求めるが、その利害関係は複雑に交錯しているため、その合理的調整が特に必要となる。スーパーやデパートとテナントの関係に関しては、商法上で名板貸と呼ばれる形態によって利害関係の調整を行なうことが多い。名板貸とは、ある者(名板貸人)が他人(名板借人)に対して自己の商号を使用しての営業を営むことを許諾することをいう。これは、わが国の商法上では、商号選定自由の原則がとられており、商人は原則として商号を自由に選ぶことが可能である(商法第11条)ことから名板貸のような名義貸与行為も認められると解されることに基づいている。名板貸によって企業活動を行うのはテナントなどの名板借人である。しかし、その外観から名板借人ではなくその名板貸人であるスーパーやデパートが営業主体であると認識して取引を行なう者が現れることがある。このような場合、取引安全の見地から、名板貸人は原則として外観を信じて取引した者に対し、名板借人と連帯してその取引において生じた債務を弁済する責任を負うとしている(商法第14条)が、具体的にはどのような場合に責任を負うことになるのだろうか。以下に考察したい。
第1章 責任の根拠
現代経済において、企業の存在は重要な位置を占めており、商法はその商取引や企業活動が円滑に行われるための基盤として存在している。商取引や企業活動は、反覆的・集団的かつ継続的に行われるものであることから、その円滑な継続のためには取引安全の保護は非常に重要であるといえる。この取引の安全という面に対し、わが国の商法上では二つの見解が重要視されている。ひとつは、商号などを他人が使用することを許諾した者は、自己を営業主体と誤認して取引した者に対して、商号などを使用した他人と連帯して責任を負うものとする見解であり、「禁反言の法理」と呼ばれている。「禁反言の法理」とは、ある表示をした者は、その表示を信用してその立場を変更した者に対し、表示したものと矛盾する主張を許さないとする英米法上の理論である。もうひとつは、営業主からの商号などの使用許諾によって、許諾を受けたものがあたかも営業主であるかのような外観を生み出してしまった場合には、営業主はその外観を信頼した者に対して、外観通りの責任を負うとする見解であり、「外観法理」という。これは、事物の外観と真相が一致していない場合に、外観を信用して行動した者に対して、その外観通りに事物を決することができるとするドイツ法に基づく見解である。わが国の商法ではこれらの見解のもと、名板貸人が真実の営業主であると誤認して名板貸人との間で取引を行なった場合、その外観を信頼した第三者の受ける不測の損害を防止するべく、第三者を保護し、取引の安全を期している。
第2章 責任の要件
先に述べた根拠に基づくと、名板貸人であるスーパーあるいはデパートが名板借人であるテナントの顧客に対する責任を連帯して負わなければならなくなるのはどのような要件が必要になるのだろうか。
1. 独立して営業をなすことに対する名義使用の許諾
独立して営業している者に対して名義の使用を許諾したことである(14条の文言解釈による)。スーパーやデパートとテナントの関係に関していえば、通常テナントとして契約するのはビルの一室を個人が借りる場合などと違い、スーパーやデパートの集客力をあてにして、自らの商品の販売を目的として契約することが多く、そのほとんどが独立して営業をなしているといえる。また、この許諾については黙示であっても可とする。更に、名義使用の事実を知りながら、それを放置する(不作為)場合も許諾にあたる(通説)。但し、誤認されやすい状態など社会通念上放置してはならない義務の違反にあたるものに責任が生じるのであり、全くの他人の勝手な使用に対してすべて責任を負うわけではない(大阪高判昭和37年4月6日下民集13巻4号653項)。名板貸人の責任は名板借人の責任を前提とするため、単に手形行為をすることについての許諾については適用されない(最判昭和42年6月6日判時487号56項)。但し、営業に関する名義使用の許諾が行なわれ、手形行為についてのみ名義が使用された場合については類推適用される(最判昭和32年1月31日民集11巻1号161項)
2. 営業または事業の同種性
許諾を受けた者と名板貸人の営業については、特段の事情がない限り同種であることを必要とする(最判昭和36年12月5日民集15巻11号2652項)。ここでいう特段の事情とは、商号の名称自体からは特定の業種を推測が難しく、名板借人が名板貸人から従前の店舗や印鑑、看板など、引き継いだものをそのまま使用しているよう場合をいう。14条は、商号というものが法律上、特定の営業について特定の商人を表す名称であり、社会的にその営業の同一性の表示と信用を示す機能を持つという事実に基づいて第三者を保護するために定められているためにこの要件を必要と解釈されている。しかし、近年、学説ではこの要件を不要とするものも多い。なぜなら、個人商人はひとつの商号のもとに複数の営業を行なうことが常態である上、会社であれば、定款記載の目的も多目的であることが普通であるため、名板貸における外観において同業種と要件は本質的要素ではないと考えられるからである。スーパーやデパートなども、その性質上複数の営業を行なっていることが常態であり、インコ事件(最判平成7年11月30日民集49巻9号2972頁)においても本来スーパーとはなじみの薄いペットというテナントの販売品に関してもその責任を認めたことから学説を支持しているといえる。
3.相手方の誤認と善意の第三者
相手方である第三者が名板貸人を営業主と誤認して名板借人と取引したことが要件となる。なぜなら、商法14条の立法趣旨が、第三者が名義貸与者を真実の営業主であると誤認して名義貸与を受けた者との間で取引をした場合に、名義貸与者が営業主であるとの外観を信頼した第三者を保護することにより取引の安全を期するということにあるからである。この、商号などの使用の許諾により作出された外観を信頼して取引した第三者を保護するという趣旨から、当該第三者に悪意又は重過失があるときは保護する必要はなく、同条の適用は否定されるものと解される。
スーパーやデパートとテナントの関係においても、第三者である顧客が、営業主を名板借人であるテナントではなく名板貸人であるスーパーやデパートと誤認せざるを得ない条件があったのかどうかが判断基準となる。しかし、この要件に関しては非常に判断が難しく、前述のインコ事件の場合もこの要件を充たすか否かが大きな問題となり、誤認の要件を充たさないとしてスーパーの責任は無いとした原判決が最高裁判決で覆されるという事態を生じた。
スーパーやデパートとテナントの関係においても、第三者である顧客が、営業主を名板借人であるテナントではなく名板貸人であるスーパーやデパートと誤認せざるを得ない条件があったのかどうかが判断基準となる。しかし、この要件に関しては非常に判断が難しく、前述のインコ事件の場合もこの要件を充たすか否かが大きな問題となり、誤認の要件を充たさないとしてスーパーの責任は無いとした原判決が最高裁判決で覆されるという事態を生じた。
第3章 責任の範囲
名板貸人が名板借人と連帯して責任を負う要件を充たした場合、その商号使用に関しては一切の責任を負う必要があるのだろうか。14条では、名板貸人は名板借人と相手の間で取引上生じた債務について名板借人と連帯して責任を負うべき旨を定めている。
1.
許諾の範囲
名板貸人が商号の使用を許諾した範囲内において責任を負うとする(最判昭和36年12月5日民集15巻11号2562項)。スーパーやデパートとテナントの関係においては、テナントに対して特定の取扱品目についての営業を許諾していた場合、商号使用を許諾した範囲を超える品目の取引については、表見代理(民法110条)の問題であり、商法上の責任範囲外であるといえる。
2.
取引上生じた債務
名板借人と相手方との取引上の債務についてだけではなく、名板借人の債務不履行による損害賠償債務や、売買契約の解除による手付金返還債務などの原状回復義務も責任範囲に含まれる(最判昭和30年9月9日民集第9巻10号1247項)。但し、事実行為としての不法行為に基づいての損害賠償債務は責任範囲外であるが、取引の外観を持つ不法行為については責任が生じる(最判昭和58年1月25日判事1072号144項)。
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連帯して弁済する責任
名板貸人の債務を保証したり、代わりに引き受けたりするのではなく、名板借人と取引した相手に対して直接に弁済の責任を負う。また、名板貸人と名板借人ともに責任を負い、両者に主従関係は生じない。デパートあるいはスーパーが名板貸人である場合においては、名板借人であるテナントの顧客に対して責任が生じた場合には、両者はともに顧客に対して直接弁済する義務を負うことになる。
終章
高度情報化が急速に進んでいる現代社会においては、既存のスタイルも残ってはいるものの、インターネットによるオンラインショッピングの出現など、商取引そのものの形が変化の受け入れを余儀なくされつつある。これまで考察してきたスーパーあるいはデパートにおけるテナントの顧客に対する責任も、どのような場合に連帯責任を負わなければならないのかいうことについて時代の流れとともに商取引に関する規定も柔軟に対応していくことは重要なことである。しかし、商法において大切なのは、どのような時代になっても、商取引を行なう者が常に安全であるという実感を持てる法律であることである。今後も時代の流れに沿って、どのように商取引の対処を行なうとしても、現在の商法の根底に存在する商取引の安全という目的を見失ってはならないと考えている。
略語一覧
・ 最判・・・最高裁判所判決
・ 大阪高判・・・大阪高等裁判所判決
・ 民集・・・最高裁判所民事判例集
・ 下民集・・・下級裁判所民事裁判例集
・ 判時・・・判例時報
参考文献
・菅野和夫 他編「ポケット六法 平成18年版」有斐閣2005年
・ 末永敏和 著「商法総則・商行為法―基礎と展開 第2版」中央経済社2006年
・近藤光男 著「商法総則・商行為法 第5版」有斐閣2006年
・ 近藤光男 著「商法総則・商行為法 第4版」有斐閣2002年
・ 倉澤康一郎 監修「口語六法全書 口語 商法」自由国民社2004年
・ 服部榮三・北沢正啓 編「商法 第9版」有斐閣2002年
・ 浜田道代 著「商法 第3版」岩波書店2003年
・ 江頭憲治郎 著「商法(総則・商行為)判例百選 第4版」有斐閣2002年