「保護観察」制度の運用上の問題に関する課題です。
スクーリングも受けましたが、講義もテキストも考えさせられることが数多くあった科目でした。受講からずいぶん年数も経ちましたが、昨今のニュースなど見ていると、問題状況はあまり変わっていないような気がします。
どんな科目? (本科目について簡単にご紹介)
犯罪予防や対策など、実務的なことも考慮した内容。
課題情報 (課題の概略や成績など)
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科目 |
刑事政策学 |
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課題概略 |
「保護観察」制度の運用上の問題に関するもの。 |
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課題タイプ |
論じなさい |
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提出形式 |
手書き(ワープロ可) |
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評価 |
A |
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レポート構成 |
1 課題定義 |
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文字数制限 |
4000字 |
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本文文字数 |
3,989字 |
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備考 |
・2つの課題から1つを選択して解答するものでした。 |
分析 (文章をまとまり毎に表形式で整理)
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課題定義
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序 章
はじめに
我が国では犯罪や非行を行なった者の改善更生による社会復帰補助とともに、再犯防止による社会安全を図ることを目的とする社会内での更生保護制度として、「保護観察」という制度があり多くの対象者が保護観察下にある。
ところが、平成16年11月の奈良県の7歳の女児誘拐殺人事件や平成17年2月の愛知県の11ヶ月の乳児殺害事件等、保護観察対象者による重大事件が相次ぎ、この「保護観察」制度の運用について問題がないのか検討が必要だと思われる。 |
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流れ提示
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以下では、この疑問について考察し、今後の制度のあり方についての提案をしていきたい。
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課題現状と問題点の指摘
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第1章
「保護観察」制度の現状と問題点
「保護観察」とは、犯罪や非行を行なった者に一定の遵守事項を守ることを義務付けるとともに、助言や指導、その他就職や悩みの相談などに乗り、彼らを刑務所ではなく社会の中で生活させながらその更生を助けるものである。その対象者は以下の5種類である。
①少年法第24条第1項1号により家庭裁判所で保護観察処分を受けた者(犯罪者予防更生法第33条1項1号・3号)
②少年院から仮退院を許された者(犯罪者予防更生法第33条1項2号)
③刑務所での刑期満了前に仮釈放を許された者(犯罪者予防更生法第33条1項3号)
④執行猶予期間中の「保護観察」に付された者(刑法第25条の2)
⑤婦人補導院から仮退院を許された補導処分に付された者(売春防止法第25条)
「保護観察」は「保護監察官」と「保護司」が中心となって行なわれている。
「保護監察官」とは、心理学、社会学等の更生保護に関する高い専門的知識を持った常勤の国家公務員である。
一方、「保護司」とは、保護司法に基づいて法務大臣からの委嘱を受けて活動する民間のボランティアのことを指す。
平成17年現在、68,194人の保護観察対象者に対して、1,116人の保護観察官と保護司48,917人が支えている(注1)
現在の「保護観察」制度にはいくつもの問題があるが特に以下に3つ挙げたい。
① 「保護観察」 対象範囲の問題
わが国の「保護観察」の対象者は「仮釈放者」が対象であるのに対し、刑期を終えた「満期釈放者」は対象外である。
刑期を終えた者に対しては既に罪の償いを果たしたとされ、その後の監督がなされる仕組みがない。 ところが、実際には重大犯罪者ほど「執行猶予」期間が付与や「仮釈放」される機会が少なく、刑期を満期で終える者が多い。 このため、満期出所者はもともと再犯の可能性が高い。 実際に再犯率も「満期出所者で約6割(注2)」と高く、常習的に犯罪を繰り返す者も多く、むしろこのような者こそ「保護観察」対象としなければならないといえる。
②指導監督不足と情報開示の問題
これは、保護観察対象者の再犯や、保護観察対象であるにも関わらず観察下を離脱して所在不明となる者が約1800人(注3)にも達していることから考えられる。
原因としては、「保護観察」の処遇内容がそれぞれの対象者に見合ったものではないのではないかということ、また、制度上対象者への積極的介入がなされておらず、またプライバシー配慮による対象者の生活実態把握不足が考えられる。 また、これらの「保護観察」対象者に関する釈放後の情報開示が広くなされておらず、保護観察官等と居住地域の住民との情報共有による危機管理のようなものができていないため、社会安全の確保という面からは問題であるといえる。
③「保護司」制度自体の問題
先に述べたように、「保護観察」制度は「保護観察官」と「保護司」が協力して運用しているものとされている。
しかし、実際には「保護観察」制度は国の管轄であるにもかかわらず、人的・物的体制上の不足を「保護司」に依存しているために問題が生じている。 「保護司」制度の問題点は、あくまでもボランティアでありながら「保護監察官」に比べて様々な点で負担が大きいことである。 例えば、「保護司」は保護観察対象者の生活そのものに関わるため、問題が起きたときは時間を問わず緊急連絡等の対処をする必要があるために「保護司」の生活時間そのものが活動時間といえる。 ところが、緊急連絡を受ける保護観察所等の「官」の側は休日・夜間等の公務員勤務時間外の体制が不十分である。 また、保護司の経済的負担もある。更に「保護司」制度そのものが国民に十分に理解されていないこと等からも「保護司」の後継者が不足し始めており「保護司」の不足と高齢化が深刻となりつつある。 ここまで挙げてきた問題に対して、現在なんら対策がなされていないわけではない。 現在、「保護司」の研修制度、また対象者の処遇難易度に応じた分類処遇制度や対象者の問題や特性に応じた類型別処遇制度など対策が試みられている。 しかしながら、冒頭で挙げたような相次ぐ事件の発生はこれらの対策が残念ながらあまり効果をあげていないことを示しているのではないだろうか。 |
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前記問題点の改善考察1
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第2章
「行状監督」制度
それでは、どのような対策がわが国における「保護観察」制度の問題点の効果的な改善につながるであろうか。そのモデルとして挙げたいのがまず、ドイツの「行状監督」制度である。
この制度は、満期釈放者などの中で処遇困難な受刑者であり、なおかつ再犯の危険性が高いと考えられる者に対して行なう自由剥奪を伴うことのない対人的刑事治療処分の一種である。
この制度では、対象者の再犯の可能性の高いと考えられる期間中に、再犯防止のために自由に生活させながら生活援助や生活状態の監督を行なう。 その制度の機能は、対象者の社会復帰支援とともに、社会安全の確保という二つを持ちあわせているといえる。
「行状監督」は「保護観察官」が担っているが、「保護観察官」は地方裁判所に属し、日本の保護観察所が法務省管轄であるのと大きく異なっている。
この「行状監督」に付される対象者は以下の2つのグループに相当する者である。
①第一グループ
刑法により行状監督に付すべきものとして規定される重大犯罪により実刑を受け、満期釈放された者。
②第二グループ
精神病院収容など、改善・保安処分を命令された者。処分後の釈放時に必要的に科せられることになる。
「行状監督」の期間は原則として2年以上5年以下とされているが、裁判所の指示に従わず「治療的処遇」等を拒否した場合で、重大犯罪を起こして社会を危険に晒す可能性があるといった時にはその可能性のなくなるまで無期限に行なうことができる。
また、故意の犯罪行為が理由で2年以上の自由刑が執行された満期釈放者に対しては、その刑執行後、釈放がなされた時から行状監督が開始される。
この制度の注目すべき点は、わが国では対象とされていない満期釈放者も対象とされていることである。
常習的に犯罪を繰り返す可能性がある者に対してこそこのような社会適応のためのサポートが必要であるといえるのではないだろうか。 しかし、わが国で導入にする場合には問題もある。 現状で既に「保護観察」制度はボランティアである「保護司」に過度の負担をかけることによって成り立っている状態である。 「行状監督」制度の導入は「監督」すべき者が、人数が増えるだけではなく更に処遇難易度の高い者を処遇しなければならなくなるということである。 導入にあたっては、「保護観察官」自体の人数を増やすことはもちろん、釈放者の情報開示を行なうことなどにより地域への協力を求めることや、「保護司」も含め、対象者に対応するに十分な更なる高度な知識取得のための勉強会なども必要になると考えられる。 |
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前記問題点の改善考察2
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第3章
仮釈放制度と社会奉仕労働
先に提案した「行状監督」制度の導入にあたって、現状では監督を行なう側の人的・物的不足が問題であるのではないかと述べた。
この問題について、ひとつの解決方法として、「保護観察」処分に付される者のうち、比較的社会復帰が他の対象者よりもスムーズにできる可能性の高い者には社会奉仕労働という形で社会参加しながら復帰をめざすという形をとり、現行の形での「保護観察」を付す対象者からはずすことも有効ではないかと考える。
ドライな言い方をすれば、現状での「保護観察」対象者を減らすことにより「行状監督」対象者の受入れ余地を作るということである。 ただ、社会奉仕労働対象者を全く「保護観察」制度からリスト削除とするのではなく、社会奉仕労働を社会復帰へのメインプログラムにする者というカテゴリーを新たに作るということである。 思うに、仮とはいえ、釈放されるということは、例え常習的に犯罪を繰り返す者であっても社会に戻る素地が十分にあるといえ、仮釈放者自身にとっても、社会奉仕労働という形で積極的に社会に関わったほうが、再犯をしない本当の社会復帰という目的達成に効果があるのではないだろうか。 彼らの監督については「保護司」等ではなく、民間からビジネスとして行なう仕組みを作ることも有効ではないかと考える。 ドイツやイギリス等では「社会奉仕作業」についてはすでに様々な形で導入がなされている。しかしながら、わが国では刑務所に収容する懲役・禁固刑の代わりの「代替刑」として制度導入が検討はされているものの導入に至っていない。 この制度について、社会奉仕労働の場の提供など広く一般企業などの協力を伴う導入がなされれば、一般国民への「保護観察」制度についての関心も高まり更には「保護司」制度等への協力が増える可能性も期待できるのではないだろうか。 |
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まとめと結論
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終 章
おわりに
ここまで「保護観察」制度の運用について考察してきた。
わが国の社会内処遇を考える上で今後特に重要なことは、犯罪者の社会復帰に関してどこかひとつの機関などに負担をかけすぎる仕組みではなく、社会全体が協力する体制を作っていくことではないだろうか。 そのためにはまず、制度を運用している側からの積極的な情報提供など国民理解を求めていくことが重要ではないかと考える。 |
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引用文献/
参考文献 |
<引用文献>
(注1) 法務省法務総合研究所 編「犯罪白書<平成17年度版>少年非行」国立印刷局2005年P113.l16-17、P119.l14-15,同頁2-5-3-1図の数値より計算、抜粋
(注2) 更生保護のあり方を考える有識者会議「更生保護制度改革の提言-安全・安心の国づくり、地域づくりを目指して-」P10.l21のデータよりオンライン、「法務省ホームページ」インターネットhttp://www.moj.go.jp/(2006/11/29にアクセス)
(注3) 同上 P34.l13-20のデータより
<参考文献>
・ 加藤久雄 著「人格障害犯罪者と社会治療」成文堂2002年
・ 加藤久雄 著「ポストゲノム社会における医事刑法入門 新訂版」東京法令出版2005年
・ 法務省法務総合研究所 編「犯罪白書<平成17年度版>少年非行」国立印刷局2005年
・青山善光・菅野和夫 他編「判例六法 平成19年度版」有斐閣2006年
・ 刑事立法研究会 編「刑務所改革のゆくえ 監獄法改正をめぐって」現代人文社2005年
・ 日本弁護士連合会/犯罪被害者支援委員会「犯罪被害者の権利の確立と総合的支援を求めて」明石書店2004年
・ 河合幹雄著「安全神話崩壊のパラドックスー治安の法社会学」岩波書店2004年
・ 浜井浩一 著「刑務所の風景―社会を見つめる刑務所モノグラフ」日本評論社2006年
・ 中嶋博行「罪と罰、だが償いはどこに?」新潮社2004年
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文章のみ (レポートをそのまま文章のみ掲載。ざっと読みたいという方に)
わが国の「保護観察」の対象者は「仮釈放